CHARGE! - 2/2

「……っ、く、……はぁ」
 今、俺の目の前にはとんでもない光景が広がっている。
 深夜のオフィスの自席。デスクに浅く腰掛けた俺の股ぐらに埋まる藍色の髪が、時折もぞもぞと動く。いつも品良く結ばれている口は大きく開いて、俺のモノを頬張っていた。
 ギネス認定レベルの絶景。いや、こんなすげぇの、他のヤツには死んでも見せたくねぇけど。そんな馬鹿なことを考えて気を逸らしているのは、集中すればあっという間に果ててしまいそうだからだ。でも紬さんはそれが不満らしい。
 上目遣いに非難の色を乗せて、扇情的に舌を這わせてくるから、ぐっと喉が詰まった。俺の煽り方を恐ろしく心得ている。裏筋を下から上へ尖らせた舌が這う。カリの段差をチロチロと舐めて、それから先端にちゅうと吸い付いた。そういうのさ、マジどこで覚えてくんの。
 舌先で尿道口を抉り、今度はズブズブと屹立を喉奥まで受け入れていく。強く弱く吸い上げながら抽挿が繰り返されて、絶頂感に腰がガクガク揺れた。中心に溜まった熱が、出口を求めて一気に迫り出してくる。
「は、……紬さ、も、出る」
「ん……む、っぷは」
 なけなしの理性が紬さんを引き剥がし、デスク傍のティッシュボックスに手を伸ばしていた。
「……っぶねー」
 間一髪。ほっと息を吐いて、とぷりと溢れ出した生温い白濁をティッシュで拭う。
「口に出してくれてもよかったのに」
 また何を言い出すんだと覗き込めば、紬さんは口元を拭いながら不満そうな顔をする。飲んでもよかったんだよなんて追い討ちをかけてくるから、秒で想像してしまって心臓と不詳の息子がばくんと跳ねた。今そういうこと言うの、反則すぎるんですけど。
「いやいや、こんなもんアンタに飲ませらんねーだろ」
 不味いし。不味かったし。
「君はこの前、嫌だ待ってって言ったのに俺の飲んじゃったよね」
「それはまぁ、勢いっつーか成り行きっつーか雰囲気っつーか。……とにかく」
 まだ不服を貼り付けた顔を両手で挟んでぐいと引き上げる。
「口でしてくれんのも嬉しいけどさ、今はアンタの中に早く入りたいんすけど」
 だめ? 尖らせた口にキスを落として、こてんと小首を傾げてみせた。どうもこの仕草に弱いらしい。紬さんはむむむと唸って、渋々ではあるがだめじゃないと頭を振った。
 今度は紬さんをデスクに座らせて向かい合う。ジャケットはせめて皺にならないようにと、椅子の背もたれに掛けておいた。キスを降らせながらシャツのボタンを外し、ベルトも外して外側から膨らむ中心をつるりと撫でる。くぐもった声が舌を伝って、痺れたような感覚が拡がっていく。
「そういえば、なんでスーツ着てきたんすか?」
「ん……、会社に私服で来るのってちょっと落ち着かないから。ぁ、……でも」
 下着ごとスラックスをずり下げれば、芯を持った雄の象徴が現れた。こういう時、男は隠し事が出来ない。興奮が形を持って二人の間に詳らかにされ、紬さんは恥ずかしそうに俯いてしまう。
 でも状況は俺も同じ。めちゃくちゃ強い精力剤がたった一度の吐精で効力を失うはずもなく、相変わらず心臓はバクバク言ってるし、身体は火照って熱いし、中心はバキバキにそそり立って痛いくらいだ。
 頬に口付けを落として、屹立をそっと握り込んだ。
「ん……っふ、ぁ」
 ゆっくり上下に扱けば、手の中が質量を増してどんどん昂っていくのがわかる。紬さんはぎゅっと目を閉じて、感じ入ったように睫毛を震わせた。元々感度は良いけれど。
「いつもより感じてんな。会社で、スーツでこんなことして、余計興奮しちまってる?」
「……ぁッ、ばんりくん」
 紬さんは是とも非とも言わない。それでも、薄っすら開いた目の色がすべてを物語っていた。やべーなこれ、ハマりそう。その目に射抜かれて、期待に背筋がぞくりと戦慄いた。
 緩慢な動きを徐々に早めていく。デスクに置かれていた手はいつの間にか縋るように俺の背中へ回っていた。もう片方の手に溢れ出た先走りを撫でつけて、後孔に宛てがう。前への攻めはそのまま、ゆっくりと中指を差し入れた。
「ぅ、はぁ、ぁ、ぁ……ッ」
 一気に奥まで押し込んで、ぐるりと抉る。指の腹で前側をグリっと擦ると、白い喉を晒して嬌声を上げながら、腰がかくかく揺れた。
「コッチもすげぇ。アンタもなんかヘンなモン飲んでねぇよな」
 思いのほか、中は柔らかい。すぐに二本目も受け入れて、うねる襞が絡みつく。もっと奥へと誘っているみたいだ。
「のんでな……、ぁんっ」
「じゃあ自分で弄ってた?」
「ひ、……ッ、んぁ」
 耳元に低く囁けば、面白いほど身体が跳ねる。図星、ってこと。だから石鹸の匂いをさせていたのか。一人の部屋で俺を待ちながら自らを慰めるこの人を想像したら、それだけで達してしまいそうだ。
 笑われるとでも思っていたのか、紬さんはきゅっと目を閉じて縮こまってしまった。肩口に額を乗せて、ぐりぐりと擦り付ける。背に回る手がくしゃりと後ろの髪を撫でた。
「寂しい思いさせて、ごめんな」
「…………うん」
 羞恥で真っ赤に染まった頬に口付ける。顔を離すと、すぐに追いかけてきて唇を奪われた。紬さんにしては荒っぽいキスで、それが無性に嬉しい。俺を欲しがってくれている。それだけで、今日の疲れとか苛立ちとか、いろんなものがどこかへ飛んでいってしまうほど。
「ばんりくん、……もうきて」
 拙くも熱烈なお誘いに喉が鳴る。栄養ドリンクよりも精力剤よりもよほど効果がある、癒し系秘書。いや、俺の恋人だ。
「あ! んんっ、……ぅ、ぁ」
 後孔に三本目をねじ込んで、性急に中をほぐす。いつもならもっと丁寧に、前戯に時間を掛けるけれど。今日ばかりはそうもいかない。はち切れそうな中心が、早く一つになりたいと涎を垂らして待ち構えている。
「ケツこっち向けて」
「うん」
 紬さんは膝に撓んでいたスラックスを脱ぎ捨てると、デスクへ向き直って手をついて、足を少し広げた。
「ぁ……ん」
 尻たぶを両側から掴んで左右に割った。俺の形を教え込んだその入り口が、呼吸のたびに蠢いて、誘うようにはくはくと震えている。
「ここ、物欲しそうにヒクついてんの。分かります?」
「わかんな……っ!」
 親指を左右から差し込んでぐいと拡げる。くぱっと開いた中は赤く熟れた果実みたいにとろりとして、時折ヒクヒクと悩まし気に震えていた。ごくりと唾を呑む。
 眩暈がするほどの光景に、理性の糸はほとんど切れかかっている。なんとかギリギリ繋ぎ止めているのは、恋人を大事にしたいっていういかにもシンプルな思いだ。
 セーフティセックスは基本。そりゃたまにハメを外してしまうこともあるけれど、ここは自宅でもホテルでもなく会社で、ろくな後処理もできないわけで。
 つまり、俺、ゴム持ってたっけ。思考を巡らす。確か財布に一つ。まぁ男の嗜みとして。
「悪ぃ、ちょい待ち」
「え?」
 PCの奥に投げ置かれた財布に手を伸ばす。中から銀色の正方形を取り出すと、紬さんは「万里くん」と名前を呼んだ。
「何?」
 ちらりと前を見れば、背中越しの不満そうな顔。そのままぶち込んで欲しかったと言わんばかりの。
「付けなくてもいい」
 ほらまた、この人は。軽率に煽ってくんなっつーの。
「そんなわけにはいかねぇだろ」
 アンタが大事だから。なんて言わなくても分かっているくせに。分かっているから、かもしれないけれど。
「だって俺ばっかり余裕なくて、……恥ずかしい」
 そんなもの、俺にだってない。年下なりの矜持というか強がりというか、そういうもので余裕ぶっているだけであって。
 前をくつろげただけだったスラックスを、下着とともに脱ぎ捨てる。手早くゴムを付けて、期待に蠢くぬかるみに添えた。縁をぐるりと先端で撫で回す。
 俯いて晒された頸にかぷりと噛み付いて、べろりと舌を這わせた。
「ぁ、んぁ、そこ……やぁッ」
 そして今日も精一杯の虚勢を張る。
「紬さん可愛い。もっと余裕無くして、トロトロんなったアンタを見せて」
 背中越しに口付ける。それを合図に、ずぷりと侵入した。
「あぁ! ……っぅ、おっき……」
「ふっ、……は」
 全部持っていかれそうなほどぎゅうぎゅう締め上げられて、思わず声が漏れる。奥までゆっくりと埋め込んで、また抜けないぎりぎりまで引き戻す。腹の側を先端で擦れば、まだ一度も果てていない紬さんの昂りはビクビク震えながらぬめる液体をとろとろに零していた。幹を伝い、太腿までだらりと汚していく。
「前はもうトロトロっすね」
「ぁ、あっ、んんッ! や、そんな早ッ……っぁあ!」
 ぐちゃぐちゃに濡れそぼったそれを掴んで素早く扱き上げる。後ろも、肌がぶつかってぱちゅんと音がなるほど、強く抽挿を繰り返した。紬さんはガクガクと腰を揺らす。逃れたいのか、もっと欲しいのか。本人もきっとよく分かっていないけれど、それがより強い刺激になっているみたいだ。襲い来る快楽に呑まれたように、開いた口から出てくるのはもう意味を成さない母音の羅列ばかりだった。
「ぁ、……ぅっ! んぁ!!」
 もう腕で支えていられなくなったのか、紬さんはデスクに突っ伏して、尻だけを上げるような形になった。大きく腰をグラインドさせ、それから激しくピストンを繰り返す。ぐちゅぐちゅ、ぱちゅぱちゅ。卑猥な水音と荒い呼気、触れた先から溶けてしまいそうな熱に翻弄されて、ふたりただ求めあうだけの塊になっていく。
「は、……紬さん」
「んっ、ぅ……っふ」
 耳元でキスを強請れば、やっとこちらへ顔を向けてくれた。真っ赤な頬には涙の跡が見える。目を合わせれば、そこに渦巻く欲望を湛えていた。
 俺しか知らない、アンタが居る。言葉にできないほどの高揚がこみ上げて、全身に燃え広がっていく。
 小さな唇にかぷりと噛みつけば、熱い舌が熱烈に迎え入れてくれる。濃厚に絡んだ唾液が顎を伝って、肌けたシャツの中に消えた。
 腰を打ち付けながら、前を弄る手を素早く動かす。限界に打ち震える屹立を握り込んで、絶頂を促すように鈴口をぐりぐりと刺激してやった。
「んん~~ッッッ!!!!」
 やがて手の中にどろりとした熱いものが放たれる。後ろに埋めた肉がぎゅうっと一際強く締め付けられて、カッと目の奥が熱くなった。思わず動きを止めて、なんとか持ち堪えた。このまま果ててしまうのがもったいなかったからだ。まだ、もっと、この人の中を味わっていたい。
「ごめ、……先、イっちゃっ……」
「んーん、もうちょっと付き合ってくれます?」
 こくんと健気に頷くのが愛おしくて、細い身体をきゅっと抱きしめた。中のものを引き抜いて身体を反転させ、向かい合ってもう一度中を穿つ。
「っん、……ぁ」
 それだけでまた軽くイったのか、ぴゅっと精液が飛んで中がきゅんと締まった。本人も一瞬何が起きたか分からなかったらしい。ぱちぱちと瞬いて、それからゆっくりと頬を染め、ううっと呻きながらぎゅっと抱きついてきた。
「紬さん、かわいい」
「……かわいくないです」
 否定すんのも可愛い。でもそんなことを言ってへそを曲げられては堪らない。なんせこっちはまだ燻ったままなのだ。
 宥めるように、こめかみにキスを落とした。やっと顔を上げたかと思えば「口にして」なんてさ。やっぱりアンタ、めちゃくちゃ可愛いんですけど。
 啄むようなキスはすぐに深くなっていく。一呼吸さえ取り逃したくないほど、この人が全部欲しい。そんな途方もない欲望にも、紬さんは健気に応えてくれた。
 思うさま唇を貪って、額をコツンと合わせれば、ぼやけた視界に蕩け出しそうな青が映る。その淵に滲む色香に、甘い痺れが鼻先から全身へと伝わっていく。火照った身体は一層熱くなって、胸がぎゅっと軋んだ。
「紬さん、掴まって」
「ん、……っわぁ!?」
 中を穿ったまま、よっこらせと紬さんを抱き上げた。一際深いところを抉られて、肩がビクンと跳ねる。
「万里くんっ! これ、深っ……んぁ! 動いちゃヤ……」
「暴れたらもっと深いとこ入っちまうぞ」
「あっ! ダ……ダメ……!」
 抱えたまま、部屋の一角にあるミーティングスペースへと歩を進める。紬さんは落ちそうになって、必死にしがみついてきた。歩く振動にいちいち反応して、小刻みに揺れている。さっき一度出し入れしただけで果ててしまったくらい、敏感になりすぎている身体だ。刺激が強すぎるのか、涙を浮かべて頭を振った。
 ミーティングスペースと言っても開発部の激務故、仮眠スペースも兼ねている。ガタイの良い連中が多いためか、置かれているソファはひとまわり大きい。
 腰を下ろして座面に寝かせると、紬さんの強張っていた身体がくたりと弛緩した。浅い息を吐くたびに、肌けた胸が激しく上下する。
「大丈夫すか?」
「び……っくりした」
 前髪を梳けば、大きな青い目がぱたぱたと瞬きを繰り返している。何度目かの瞬きで、浮かんでいた涙はこめかみを伝って落ちていった。それを舐めとって、続きを促すように腰を引いてまた戻す。
「んぁ…っ!」
 背がしなって、シャツの隙間から見えるピンク色の突起が悩まし気に揺れた。
「なぁ、紬さん」
「……もう、万里くん」
 困ったように言うけれど、ちっとも嫌そうじゃない。演技が下手っつーか演じる気もないっつーか。思わずふはっと笑えば、紬さんも吹き出した。
 ソファからしなだれ落ちていた手が気だるげに上がって、頬に添えられる。了承はキスに載せられた。
「は……っ、んむっ、ぁ……」
 舌を絡ませながら両膝を左右に割り広げ、圧し掛かるように自身を埋めていく。ゆっくりと内壁を擦りながら、奥へ、奥へ。うねる襞がもっとと強請るように絡みついてくる。繋がった部分がドクドク音を刻む。どちらの脈拍か分からないけれど。いずれにしも、早すぎてショートしそうだ。
 トントンと奥をノックするような動きに、紬さんは快感を逃そうと頭を振り、その度にぱさぱさと髪が踊る。それに合わせて眼前で揺れる桜色に誘われるまま両の手を伸ばし、きゅっと摘まみ上げる。
「ぁあんっ!!」
 可愛く啼いて、中がぎゅんと締まった。
「ぅ、……はっ、すげぇ締まる。ここ、そんな気持ちい?」
 聞かなくても分かってるくせに、そう目で訴えてくる。でもアンタの口から聞きたいんだ。ぷっくりと立ち上がった乳首を親指と中指で摘まんで、人差し指で素早く弾く。時折強く捏ねてやれば、陸に打ちあげられた魚みたいにビクンビクンと身体が跳ねた。
「ぁあ、……そこ、ぁ、やぁ!!」
「教えて、紬さん」
 奥を擦りながら乳首を弄られるのに弱いらしい。やりすぎて本気で泣かせたこともあって、自重ぎみだったけれど。ほら、俺、アンタにもらった精力剤でこんな元気になっちゃったんで。
 免罪符を手に入れて少し、いや、かなり強引に振舞っている。
 それでもこの人は受け入れてくれるという安心感と、たまには強引に抱かれたいと思っている確信があるから。じゃなきゃ、あんな煽り方して来ねーだろ。
「きもちいっ……気持ちい良いからぁ、もぉ……」
「じゃあもっといっぱい弄ってやろーな」
「あ、嘘! や、万里くんっ!」
 ゆさゆさと揺さぶりながら、胸の飾りを執拗に責め続ける。挟んで、弾いて、すりすりと撫でて、引っ掻いて。そのどれもに反応を返しながら、ほとんど泣いているような声を上げた。
「イくっ、またイっちゃ……!」
「アンタのイくとこ、見せて」
「ひ、ぁ、あ、ぁああッ!!」
「……っは、くぅ」
 穿った先端を擦り付けながらピンク色の粒をきゅうと摘まみ上げると、全身を激しく震わせて達した。全部持って行かれそうな締め付けに、歯を食いしばる。ふたりの間で震える性器からは薄くなった精液がまた放たれた。荒い息を吐きながら、俺を飲み込んだままの中はずっと収縮を繰り返している。
 嵐が収まるのを、もう待っていられなかった。
「ごめ、紬さ……っ」
「ぁ、イってる! イってるからぁ!!」
 ギリギリまで引き抜いて、また深く埋め込む。長いストロークで前立腺をごりごり擦りながら何度も繰り返せば、その度にあられもない嬌声が上がった。煽られてるのはどちらか。それも、どうでも良くなった。緩慢だった動きはどんどん性急になっていく。
「あ! はぁ、ふっ、んんっ! ……んぁ!!」
「はっ、すげ。ずっとイってる」
 ひたすら腰を打ちつけて、肌がぶつかる音に水音が絡みつく。突き入れるたびに紬さんは押し出されるようにびゅっびゅと白濁を飛ばした。
 辛うじて纏っていた白いシャツはすっかり肌けて、胸はぷっくり腫れ、自身が吐き出した体液でべっとりと濡れている。あまりに扇情的な光景に、身体の中心で渦巻く熱が吐口を求めて暴れ狂っている。
「俺も、イキそ……っ」
「ぁ、あっ! ばんりくん、ばんりくっ……!!」
 欲望をぶつけるだけの獣になった俺を、熱に浮かされた声が健気に呼ぶ。
「紬さん……ッ!!」
 愛おしい名前を呼びながら、薄膜越しに精を放った。
 間断なく何度も腰を打ち付けて、すべてを出し切っているつもりなのに、確かに吐き出されているはずなのに、昂りが一向に収まらない。なんだ、これ。なんで。酩酊感に視界が赤く染まっていく。
「ぁ! もぉ、や! ぁあっ、やぁっッ!!」
「ごめ、……止まんねぇ……っ!」
 ぐぽぐぽっと酷い音をさせて、馬鹿みたいに腰を振った。あっという間に中心に溜まった欲望の渦を、もう一度叩きつける。
「は、ぁん! やッ、〜〜〜ッ!!!」
 紬さんは声にならない声を撒き散らして、何度目かわからない絶頂を迎える。もう吐き出されるものは何もない。中だけでイったんだということだけ、狂ったように揺さぶりながら頭の片隅で思った。
 ようやく引き抜くと、ゴムの先がたぷんと揺れる。流石にもう使えない。手早く口を縛って、テーブルに放り投げた。
 くったりとソファに沈む紬さんは、ピクピク痙攣していて、まだ快楽の渦の中にいる。頬を撫でると猫みたいに擦り寄ってきた。ちゅっとこめかみに口付けて。
「ごめん、まだ、終わってやれねぇ」
「ぁ、うそ……待っ」
 両脚をクロスさせてまとめ、右肩に担ぎ上げた。そして、ぴたりとくっついた股の隙間を縫うように性器をずるりと差し込んだ。
「ここ、貸して」
「ぁ、あっ」
 返事も聞かずにピストンを始める。
「うぁっ、これ……擦れて……っぁ」
 ぬめりを帯びた陰茎が陰嚢を押し上げる度、甘ったるい声がさわりと耳朶をくすぐった。
「はっ、ふ……、つむぎさ……ッ」
 じっとりした肌がぶつかる音にも興奮が募っていく。
 紬さんは尻から腰まで浮かせたような状態でただただ突き上げられ、揺さぶられ続けていた。腹から胸を汚す彼の白い残骸が、呼応して揺れる。そんなことすらも性感として受け止めてしまう悩ましい身体が、愛おしくて仕方がない。もっと、もっと。飽きることなく貪って、与えられる刺激を逃す術を知らない身体は、その全部に敏感に反応した。
 一気に上り詰め、競り上がってくる絶頂感に身を任せた。
「っは、出る……っ」
「うぁ、はっ、ぁあんっっ!!」
 どくどくっと放たれたものが、薄い腹に降りかかる。紬さんも大きく背をそらして、また絶頂を迎えた。
 燻る熱を全て吐き出してようやく収まった頃には、紬さんは身体の力がもう入らなくなったのか、ぐにゃりとソファに沈んでいた。それでも、覆い被さってぎゅっと抱きしめれば、同じ強さで抱き返してくれる。
「は、は、……はぁ。あ……はは、すごかったね……」
「ん……」
 荒い息と裏腹に穏やかな声が耳元に落ちる。後ろ髪を梳く手が優しい。とくとく早い鼓動を感じながら、大きく深呼吸すると、紬さんの匂いが胸に満ちた。
 しばらくそうやって抱き合って、落ち着いたら今度は離れるのが名残惜しくなる。なかなか離れようとしない俺を、紬さんは急かしたり嗜めたりしなかった。その包容力が嬉しくも悔しい。結局最後は自分本位なセックスになってしまったというのに、この人は。
 こっちだって成人してそれなりに大人をやってるのに、この人との埋まらない歳の差を思い知らされるような気がした。
「万里くん?」
 その上。心配させてどうする。なんでもないと頭を振った。
「身体、大丈夫っすか?」
 ようやく身を離して、今更だけれどそう声をかける。優しく出来たとはとても言い難い。ウェットティッシュで身体を拭きながら、紬さんは重そうな瞼を上げて、それからふわりと微笑んだ。
「うん」
 そういえば零時もとうに過ぎている。無理させた自覚もあるから、身体だって辛いだろう。とろんとした目はもう微睡に半分落ちかけていた。
「万里くんは? もう大丈夫?」
 ふわふわした声でそう聞かれて、ようやく気付いた。心地良い疲労感があるものの、不思議と頭は冴えている。これはオフィスだからなのか、それともあの栄養ドリンクの効果なのか。
「ん、おかげさまで。なんかすげー元気になってきた」
 シャツのボタンを留めてやりながら、額にキスする。くいと顔を上げて強請るから、唇にもひとつ。
「ありがとな、付き合ってくれて」
「ううん。俺も、いつもと違うからどきどきしちゃった」 
「クセになりそ?」
「ちょっと……ね……」
 マジか。じゃあ次は資料室ででも……なんてお誘いをするより先に、くたりと身体を預けて、そのまま眠ってしまった。
 背中をぽんぽん叩いてやりながら、庶務課に鍵を借りる手筈を考える。同期の咲也に頼むのはなんとなく良心が痛むから、至さんを買収するのが手っ取り早いか。どんな見返りを要求されるか恐ろしいところだけれど。
 すよすよと寝息をたてる痩身をソファに横たえて、一つ伸びをする。なんだか身体も軽いような気がした。さて、スッキリしたことだし仕事の続きに取り掛かろう。さっさと片付けて、心置きなくデートを満喫するのだ。自席へ戻る足取りは、思いのほか軽かった。

***

 あの栄養ドリンク、半端ねぇ。正直なところ、午前中に終われば万々歳かと思っていた案件だったのに。ギンギンに冴えた頭は華麗にコードを紡ぎ出し、外がうっすら白み始める頃には納品まで完了していた。
 しかもデスクワークに付き物の肩と腰の痛みがすっかり取れていて、身体が軽い。これならデートも心置きなく楽しめそうだ。
 流石にオフィスで飲むのはもうやめておかないとヤバいけれど、家に何本かストックしておこうか。
 帰り支度を整えてソファに腰を下ろすと、向かいで健やかな寝息を立てていた紬さんがもぞもぞ動いた。
「ばんりくん」
「悪ぃ、起こしちまった?」
「ううん」
 むくりと起き上がって、ぱちぱちと瞬きをする。
「ばんりくん、おわった?」
「ん。お待たせ。今タクシー呼んでっから」
 立ち上がって隣に座り直すと、こてんと頭が肩に乗る。まだ八割夢の中、といった具合だ。
「俺、運ぶんで、寝てて良いっすよ」
「ううん、歩けるよ。ありがとう。おつかれさま。がんばったね」
「アンタとあのエナドリのおかげだな」
 えなどり。鸚鵡返しした後、耳までぱあっと赤くなる。いろいろ思い出したらしい。
 あぁとかうぅとか何やら呻いて、それからぎゅっと抱き付いてきた。俯いていて表情は見えない。けど、とりあえず可愛いのはよくわかる。
「あのね、万里くん。今日のデートなんだけど」
「うん?」
「やっぱり出かけるのやめない?」
 アンタがあんなに楽しみにしてた植物園なのに。
「身体しんどい? ……よな、すんません。俺がいっぱい無理させたから」
「あ、違う! そうじゃなくて!!」
 がばっと上げた顔は真っ赤。言葉を探し、言い淀んで、口を尖らせながら。
「その、……万里くんと二人きりで過ごしたいというか、もっと触りたいというか……」
「……は」
「最近ゆっくりできてなかったでしょう。久々に君にいっぱい触れたら……その……」
 この破壊力よ。俺の中の何かがドカンと爆発した。と同時に、ソファに押し倒していた。
「それって、こういうこと?」
 耳元に息を吹きむと、肩が震える。それからこくんと頷くから、堪らなくなって唇を乱暴に奪った。
「んん! っぷは、万里くん! 家! 家でしよ!?」
「待てねぇ。今すぐ抱き潰す」
「だめだめだめ!!」
 ぐぐぐっと押し戻される。この人だって立派な成人男性。それなりに力が強くて、ガチで抵抗されたらなかなか手は出せない。そんな攻防はタクシーが来るまで続き、渋々家まで我慢することになった。
 まぁ家の扉を閉めた途端向こうから熱烈にキスされたあたりで、俺の我慢はしっかり身を結んだのだけれど。
 丸一日パンツを履く暇がないほど抱き合って、日が傾き始める頃には、例の栄養ドリンクを箱買いすることをすっかり決め込んでいた。